7月15日に長野県小諸市で収穫された花豆を測りました。2011年収穫の紫花豆556g(長期に保存されていて、1ℓに満たなかった)の30分間測定で、Cs134のピークが検出されたため、15時間測定しました。
その結果、Cs134のピークは消え、Ac228(アクチニウム)にピークが見られました。
この件について生産者であるKさんより以下の考察を頂きました。
⑴ アクチニウム*(註)は天然に存在するTh232(トリウム)が崩壊して最終的にはPb208(鉛)になる過程でみられる放射性物質である。重いため空気にのって遠く飛散することはなく、水に溶けず細かい粒として、土、空気中、海や川の水に存在している。
⑵ 福島原発事故で、炉内にあるPu240(プルトニウム)が崩壊してトリウムとなり、さらにアクチニウムとなって飛散した可能性があるだろうか。2012年9月に文部科学省は福島県内のプルトニウム土壌沈着マップを報告している。新しい沈着は原発から北西方向50Km以内で確認されているが、その他の地域では事故以前の値の範囲だった。従って、アクチニウムが小諸まで飛散したとは考えにくい。
⑶ 豆を洗わないままに測定しているので、土埃が着いていて、天然由来のAc228を測定した可能性があるが、土埃の量は豆の1%にも達しない筈で定量的に理解できない。
⑷ Ac228のピークが本物とすれば、トリウム系列の他核種が同時に存在している筈だが、見られない。(AT1320AではAc-228以外のトリウム系列であるTl-208は測定できない。これを確認するには、他の測定器にかける必要があります)
⑸ Ac228のピークは目で見てはっきりしたピークには見えないこと、また、統計的有意さが大きくないことから、統計的ふらつきか、解析プログラムの不完全さによる判定エラーの可能性がある。
以上が、Kさんの考察の主旨です。ふだんの測定では見られない結果が得られた時、様々な情報を併せて判断する道筋を学ぶことができました。ありがとうございました。
測定員 梅村浄
*註
重い放射性核種は以下の4系列に分類される
(ⅰ)トリウム系列(原子量A=4n,4の倍数);天然に存在する232Thから始まる系列:
232Th(Z=90, 半減期t1/2=1.4×1010 y, a崩壊) →228Ra(Z=88, 6.7 y, b崩壊) →228Ac(6.13 h, b崩壊) →228Th...→最終は安定な鉛208Pb(Z=82)
(ⅱ)アクチニウム系列(原子量A=4n-1);天然に存在する235Uから始まる系列:
235U(Z=92, 8.9×108 y, a崩壊) →231Th(Z=90)→...→最終は安定な鉛207Pb
(ⅲ)ウラン•ラジウム系列(原子量A=4n-2);天然に存在する原子炉燃料238U(Z=92)から始まる系列:
238U(Z=92, 4.5×109 y, a崩壊) →234Th(Z=90)→...→最終は安定な鉛206Pb
(ⅳ)ネプチニウム系列(原子量A=4n-3);天然には存在せず,人工的,即ち原子炉や原子爆弾などの中でできる241Pu(Z=94)から始まる系列:
241Pu(Z=94, 10 y, a崩壊) →231Th(Z=90)→...→最終は安定なビスマス209Bi(Z=83)
Table of Isotopes, 7th ed.より